パイオニアエコサイエンス

2021.03.29
品種の歴史

(2)どんな品種改良技術があるの?

トマトが日本で鑑賞用から食用として認められ、今こんなにも食べられるようになるまでには、臭みをなくしたり病気に強くしたりと、その裏には育種家たちの努力がありました。育種家たちが利用する品種改良技術にはどのようなものがあるのでしょうか。



交配育種はいいとこ取り

交配育種は、形質の異なる品種同士を掛け合わせ、その子孫から目的の形質をもつものを選抜していく方法です。かつて自然突然変異によって生じた嗜好に合う株を選抜していたのに対し、積極的に目的の形質を求めることができるため、現在でも多く用いられている方法です。労力はかかりますが、その組み合わせ次第で思いがけない形質が生まれることがあるのも、この方法の醍醐味です。

トマトで有名な品種の一つである「桃太郎」(タキイ種苗)は、この交配育種を繰り返し、約15年という長い試行錯誤の結果生まれたものです。1960年代後半当時、高度経済成長に伴いトマトの産地が大都市から遠隔地に移ったため、まだ緑色が残る内に収穫し、輸送中に成熟させる方法がとられていました。しかし、この方法では消費者に届くトマトの味は十分ではありませんでした。そこで開発者は熟しても輸送できる硬さである「フロリダ-MH1」や、糖度やうま味のある系統、果肉が厚い系統と、何百品種との交配と選抜を繰り返し、その形質を加えていくことで、食味もよく完熟してから収穫しても崩れない品種が完成しました。

またF品種とは、特定の母親品種と父親品種を交配して作られる品種のことです。その組み合わせ次第で、両親の能力を超えるものが生まれ、また特徴も均一になるため栽培しやすく、今では栽培されているトマト品種のほとんどが、F1品種です。

 

突然変異を人工的に

自分が持つ資源の中に目的とする形質をもつものがなければ、交配育種はできません。そこで人工的に突然変異を誘発し、性質の異なるものを作る方法が突然変異育種です。

青梨の代表品種である「二十世紀」は、明治時代から現在も愛されている品種ですが、ナシ黒班病にかかりやすいのが難点でした。1962年にガンマフィールド(茨城県常陸大宮市)に定植し、苗木にガンマ線を照射し突然変異が誘発させる頻度を上げたところ、中から病気に強い苗木が生まれました。こうしてできたのが「ゴールド二十世紀」です。

種子ができない植物にも利用できる点も、突然変異育種の利点です。

 

遺伝学や分子生物学の進歩

交配育種は、性質の異なる品種同士を掛け合わせ、その子孫から両方の形質を受け継いだものを選抜していくものと、先の項で述べましたが、生物の性質というのはゲノム配列によって決まります。1990年代後半になるとゲノムの解読が進み、野生種と栽培種でどの配列が違うのか、病気に強いのはどの配列なのか、ということが次々明らかになってきました。これまで栽培し、食味や病害菌の摂取試験といった実際の試験や見た目の形質によって選抜してきたものが、遺伝子配列によって選抜できるようになり、選抜の効率が向上するようになりました。

 

ゲノム編集技術はピンポイント育種

サナテックシード株式会社が使用しているのは、ゲノム編集技術という新しい品種改良技術です。ゲノム編集技術は狙った配列に変異を導入できるので、変異の入り方によってその遺伝子の機能を強化したり停止したりすることができます。これまで自然に変異が入った品種を選抜したり、交配で形質を移したりすることで、品種改良を行ってきましたが、ゲノム編集により、その手間が少なくなり、効率よく品種改良を行うことができるようになりました。

今回お申し込みいただいた「シシリアンルージュハイギャバ」も、GABAの合成酵素遺伝子に変異を導入し、GABAを合成する力を高めました。次回は「シシリアンルージュハイギャバ」でどのようなことを行なったのか、ご紹介します。

 

(参考図書)

鵜飼保雄・大澤良編著:「品種改良の世界史 作物編」,(加屋隆士,第13章 トマト)悠書館,2010

タキイ種苗株式会社トマト育種チーム, (2020) 日持ち性を有し完熟出荷を可能にした高品質・良食味大玉系トマト「桃太郎シリーズ」の育種, 育種研究, 22(2), 184-188

エペ・フゥーヴェリンク編著(中野明正・池田英男監訳),「トマト オランダの多収技術と理論ー100トンどりの秘密」,農山漁村文化協会,2012

中川仁. (2006). 放射線育種場の最近の成果と今後の発展. Radioisotopes, 55(6), 319-332.

2021.03.26
栽培のポイント

栽培の基本編 肥料について

栽培の基本編、つづいては肥料について

肥料とは

皆さんが一般的にいう肥料とは大半が化成肥料となります。
ホームセンターなんかで売っている、8・8・8とか10・10・10とか書いているアレです。
この数値は何かというと「その肥料の袋に入っているチッソ、リン酸、カリウム」の配合率のことなんですね。
例えば10㎏の袋に8・8・8と記載があったときは、その袋に「チッソ0.8㎏、リン酸0.8㎏、カリウム0.8㎏」が各成分で入っていますよ~という意味になります。
プロの農家さんはよく10a(10アール、約1000㎡、333坪です)あたり○○㎏、という計算をします。
この時の10aあたり○○㎏というのは、すべてその成分で計算します。

10aあたり8㎏の窒素を入れたい、となれば上記にある8・8・8を100㎏入れればよいのですが、その際はリン酸とカリウムも8㎏ずつ入る計算になります。
なので、様々な資材を組み合わせてその土地にあった肥料を設計していれるのが一般的なんです。

 

肥料の種類

肥料には様々な種類があり上記にあった「チッソ、リン酸、カリウム」は有名ですので多くの方がご存じかと思われます。
これらは肥料の三大要素として有名ですね。
この肥料にカルシウム、マグネシウムを加えて「五大肥料」とも呼びます。
しかし我々人間が様々な食事を欲するのと同様、植物もおよそ12の成分を必要とします。(細かく言うともっとあります)
残りの7種類、それが微量要素といわれるものです。
主にホウ素(B)、塩素(Cl)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)などがあります。
微量要素は入れる量がわずかなため忘れがちですが、これらの要素が欠乏することによる弊害は計り知れません。
例えば、。銅なんて入れるの?と思うかもしれませんが、銅がないと鉄が動きにくくなります。
鉄?そんなもの入れるの?はい、入れます!人も鉄分補給は大事ですよね。同じです。
で、鉄の動きが悪くなると結果的にマグネシウムの動きが悪くなり、光合成の低下、ひいては糖分を作ることができないので
結果的にチッソと水で育ち、美味しくないトマトの完成です!

OK、じゃあどれくらい入れるの?

家庭菜園での栽培ではよく株あたり100gといった表現が使われていますが、あれは肥料成分ではなく現物の重さで考えています。
8・8・8の肥料を株あたり100g入れるということは、3つの成分が8gずつ入る計算になります。
こまけぇなぁ、と思うでしょうがもう少々お付き合いください(笑)
1株あたりチッソ成分が8g入る、ということは10aあたりやく2000株ほど入れるトマトにおいては10aあたり16㎏のチッソ成分を入れる計算になります。
私どもはトマトにおいては10aあたりチッソ成分で8~10㎏程度を推奨し、足りない分は追肥で補う考えでいます。
ですので、株あたり60g=チッソ成分で4.8g(≠10㎏/10a 2000株)を目安に入れていただきます。

その他の成分は?

チッソ、リン酸、カルシウムはその作物によっておおよその数値が決まっております。
それに対して、カルシウム、マグネシウムの量をしっかりと決めることが出来ればおおよその数値は整います。
ではどれくらいかといいますと、チッソの10倍のカルシウム、2倍のマグネシウムです。
8・8・8の場合、60gを株あたりに入れるとおよそ4.8gの窒素が入ります。そこに苦土石灰(カルシウムとマグネシウムの肥料)を入れるわけですが
成分で見たときに48gのカルシウムと、9.6gのマグネシウムが必要です。
一般的に売っている苦土石灰はカルシウム55%、マグネシウム15%程度です。90g入れるとカル49.5g、マグ13.5g入るわけです。

なので60gの8・8・8と90gの苦土石灰を1株あたりに与えることで、おおよそ適正な肥培管理ができるというわけです。
(本当はリン酸とカリウムは少し足したいのですが、肥料が細かくなるので追肥で対応します!)
ただ、注意したいのは、この施肥はすべて土壌成分がきれいな状態の時です。過剰な場合はコントロールしないといけませんが、その話はまた後ほど。