パイオニアエコサイエンス

2021.04.16
品種の歴史

シシリアンルージュとは

そう、あれは確か20058月のある夜。 

たまたま夜中に目が覚めてテレビをつけたら、日経スペシャル「ガイアの夜明け」が放送されていました。
イタリアでマウロというブリーダーが開発した「シシリアンルージュ」という調理用トマトを、トマト料理にあまりなじみのなかったその当時の日本で展開しようとしていたある会社のお話です。 

その当時にはトマトがキュウリを抜いて年間で一番購入金額が高い野菜となったのですが、日本のスーパーでは生食で食べる大玉トマトか赤いミニトマトがほとんどで、他の国と比較すると年間消費量はかなり少ない方でした。

実は日本にはそれまでも調理用トマトの品種はあったのですが、生食文化のためにトマトには甘さとみずみずしさが求められており、それまでの調理用トマトでは全く市場には受け入れられてなかったのです。 

マウロが開発した「シシリアンルージュ」は生食でも食べられる美味しさに加えて、加熱調理した際にその本領を発揮する「うまみ」を備えており、狙うべきマーケットはトマト料理という新しい食文化の普及でした。 

そこで最初にその会社が取り組んだのは、「シシリアンルージュ」の特性を最大限に発揮する食べ方の研究です。
東京の南青山のカ・アンジェリ」では「シシリアンルージュ」のフルコース料理がありました。
前菜に始まり、メインの肉料理やパスタ、最後のデザートに至るまで、まさしく「シシリアンルージュ」づくしです。

http://happyrecipe.net/happyrecipe/restaurant/caangeli.html

https://ameblo.jp/achan-world/entry-10110174573.html

 他のトマトにはない旨味によって、どんな料理にも合う可能性が見えてきました。

 

2021.04.05
品種の歴史

(3)国内初!ゲノム編集トマト 「シシリアンルージュハイギャバ」

2020年12月11日、国内初のゲノム編集技術を利用した食品として、サナテックシード株式会社のGABA高蓄積トマトの国への届出が受理されました。今回は改めて、「シシリアンルージュハイギャバ」についてご紹介いたします。

 

ノーベル化学賞・CRISPR/Cas9を利用

2020年ノーベル化学賞の受賞者はCRISPR/Cas9の開発者である、シャルパンティエ博士とダウドナ博士でした。CRISPR/Cas9は、外から細胞に入ってくるウイルスの特定の塩基配列を認識し、切断するという細菌がもつ免疫システムを応用したもので、ウイルスの特定の配列だけでなく、開発者が指定する配列を切断できるように改良されました。植物に利用すれば品種改良に、ヒトに使えばガンの治療法として利用できる可能性があります。このように多分野に渡って人類に大きな恩恵を与える技術であるということで、ノーベル賞の受賞に至りました。
「シシリアンルージュハイギャバ」はこの技術を用いており、CRISPR/Cas9を用いて作られた作物としては世界で初めてでのことです。

 

GABA合成遺伝子の力を最大限高めました

GABAはうま味成分のグルタミン酸に、GADという酵素が働きかけることによって作られます。

GAD酵素はフタのような構造を持っていて、フタが開いているとGABAを作り、閉じているとGABAを作れません。このフタは専門的には「自己抑制ドメイン」と言いますが、このフタが環境によって開閉することで、GABAの合成が制御されています。
ストレスをかけるとGABAが蓄積するのは、環境の変化によって、GAD酵素のフタが開いて活性状態になるからです。 

今回私たちはゲノム編集技術を用いて、フタ、自己抑制ドメインを失くすことによって、常にGADを活性状態にし、ストレス栽培をしなくてもGABAの量を増やすことに成功しました。

ゲノム編集技術を使用した食品・生物の 取り扱いルール

 ゲノム編集技術の前に、遺伝子組換え技術で作った作物についてのルールについて説明します。遺伝子組換え技術も品種改良技術の一つですが、交配できない他の生物の遺伝子が組み込まれるという点で、他の品種改良とは大きく違っています。綺麗な青いバラやカーネーションは、パンジーの青色遺伝子を入れることで美しい青色を出すことを可能にしました。遺伝子組換え技術で作った作物は、食べた時の安全性や他の生物や環境に影響を与えないかなどの審査が必要です。

ゲノム編集技術で作ったものは、これまでの品種改良で作った作物と比較して、最終的にもともと持っている遺伝子に変異を導入しただけという意味では同じです。そのため、従来の品種改良で生まれた作物と同様、審査は行わないというのが日本のルールです。ただゲノム編集技術は、審査が必要な遺伝子組換え技術と共通する過程を含んでいることや、まだできて歴史が浅い技術であるということから、事前相談や届出を通じ、詳しい情報を厚生労働省や農林水産省に提供するという決まりになっています。

 

シシリアンルージュハイギャバは「ふつう」のトマト

サナテックシードは、シシリアンルージュハイギャバを提供するに辺り、ルールに則り、厚生労働省や農林水産省との事前相談をしました。そこでゲノム編集技術によって、新たなアレルゲンや毒性物質が作られていないか、本当に他の生物の遺伝子が組み込まれていないか等の試験結果を全て提出し、安全性や環境への影響に問題がない、従来の品種改良で作られたトマトと同じであることが確認されたため、今回皆様へ提供することとなりました。

(参考図書)

ノーベル化学賞2020要約:https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2020/summary/
渡辺孝康, 中川一路, 丸山史人. (2013). 原核生物の新規な獲得免疫機構CRISPR/Casシステム. 化学と生物, 51(7),441-444.
サントリーグローバルイノベーションセンターHP:https://www.suntory.co.jp/sic/research/s_bluerose/story/
厚生労働省医薬・生活衛生局食品基準審査課 新しいバイオテクノロジーで作られた食品について, 2020
農林水産省HP:https://www.affrc.maff.go.jp/docs/anzenka/genom_editting.htm